はじめに
"Technical Writing"というカテゴリーでは,テクニカルライティングについてまとめる.
テクニカルライティング とは
情報を効率的かつ正確に相手へ伝達するための文章執筆技法である
もともとは技術,工学,及び科学の分野でのライティングを意味していた
今日では,すべての職業や組織でなされるライティングを意味する
テクニカルライティングを学ぶ意義とは
学会の予稿集や論文集へ投稿する文章を書く場合,通常,執筆者は「作法」に則り文章を書く.例えば論文における文章構成の作法は,文章全体の要約から始まり,既存の研究の傾向,既存研究の問題点の指摘,自分達の研究の位置付け,既存研究における問題への解決策の提示,解決策の有効性を示すデータの提示,結論付け,参照文献一覧の提示といった順番で文章が書かれる.
なぜ,このような堅苦しい「作法」に則り,文章を執筆しなければならないのだろうか.
ここで,書き手ではなく,あえて読み手として想像してみよう.あるテーマ(カレーライスの歴史,火星の地表の組成,ロケットの垂直着陸におけるモデル予測制御など何でもよい)の情報を集めたいとき,頑張って100冊の論文を入手したとする.ただし,それらすべての論文は文章の構成が異なっていたとする.具体的には,ある論文は結論しか書いておらず,別の論文は冒頭から提案手法の良さばかりを強調し,また別の論文は参考文献から書き始め,最後に文章全体の要約が書かれている,といった具合である.
するとどうだろう,自分はそれらの文献の中から得たい情報を得るために,いったい論文のどの部分を読めばよいのだろうか.
そう.結論としては,自分の得たい情報の在処が分からなければ,100冊の論文すべてを読むよりほか無い.泣く泣く100冊の論文を読まなければならないのだ.
このように,構成に関してコンセンサスが得られた「作法」が確立されていないと,自分が情報を得たい場合に発生するコストが高くなるという,悲しい事態に陥ってしまう.そしてこのことは,いたるところで文章によるでコミュニケーションがなされる現代社会においては,極めて損な事態である.
読者として得たい情報へアクセスするコストが高くなることは,自分が文章を執筆する際に,とりわけ注意しなければならない.つまり,情報を伝えることが目的の文章を書く際には,読み手は文章を,得たい情報を得るために読むのであって,決して暇つぶしに読むのではない,ということを肝に銘じなくてはならない.
文章の構成が作法として定まっていれば,読者は多くの情報の中から,必要な情報を瞬時に読み取ることができるだろう.分厚い100冊の論文を端から端まで読むことはなくなるのだ.
ここまでは文章の構成に関する例を考えたが,文章の書き方一般においても同様のことが言える.すなわち,情報を伝達することを目的とした文章を書く際に,皆が,皆で定めた「作法」に則って書くことができれば,読者(少なくとも作法を理解した読者)は文章の中から必要な情報を素早く得ることができる.
そして,その「作法」の一つがテクニカルライティングである.
よってテクニカルライティングを学ぶことは,自分が執筆者の際に,読者が情報を容易に得られるように文章を書く能力を向上させることであり,また自分が読者である際に,相手の文章の中から必要な情報へ即座にアクセスする能力を鍛えることなのである.
参考資料
- 理科系の作文技術, 木下是雄, 中公新書, 2013年第78版
- NASAに学ぶ英語論文・レポートの書き方, メアリ・K・マカスキル(著), 片岡英樹(訳), 共立出版, 2012.
- Technical Writing Courses for Engineers, Google, 2020